森鴎外

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第四十一日は文化三年七月朔である。「七月朔日四更に発す。冷水峠を越るに風雨甚し。轎中唯脚夫のを石道に鳴すを聞のみ。夜明て雨やむ。顧望に木曾の碓冰にも劣らぬ山形なり。六里山家駅。一商家(米家五兵衛)に休。日午なり。駅中に石を刻して蛭子神 ...

芥川龍之介

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それから大殿様の御隠れになる時まで、御親子の間には、まるで二羽の蒼鷹が、互に相手を窺いながら、空を飛びめぐっているような、ちっとの隙もない睨み合いがずっと続いて居りました。が、前にも申し上げました通り若殿様は、すべて喧嘩口論の類が、大 ...

鬼岩正和

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それにしても、こんな時間にいったい何があったのだろう?
夕方、仕事から帰ってきたときには何も言っていなかったよな。
「こんな時間にいったい何があったんだ?」
「知らないけど、おじいさんが夕飯も食べていないからっ ...

森鴎外

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第三十八日は文化三年六月二十七日である。「廿七日暁より雨大に降る。風亦甚し。因てなほ川崎屋にあり。一商人平家蟹を携て余にかはんことをすゝむ。乃に載する蟹殻如人面きものありと称するものなり。午後風収雨霽。すなはち撫院の船に陪乗す。船大さ ...

芥川龍之介

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大殿様と若殿様とは、かように万事がかけ離れていらっしゃいましたから、それだけまた御二方の御仲にも、そぐわない所があったようでございます。これにも世間にはとかくの噂がございまして、中には御親子で、同じ宮腹の女房を御争いになったからだなど ...

鬼岩正和

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まだ十月だというのに、夜になるとさすがに肌寒い。
締め切りに追われ、二階の部屋で仕事をしていたがストーブをつけようか迷っていた。それとも夜食でも食べようか・・・

「ちょっと来て!急いで!大変なの!」突然、母が叫びだ ...

森鴎外

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第三十六日は文化三年六月二十五日である。「廿五日卯時発す。山路を経るに周防長門国界の碑あり。二里半山中駅なり。二又川を渡り二里半舟木駅。櫛屋太助の家に休す。売櫛家多し。土人説に上古此地に大なる樟木あり。神功皇后の三韓を征する時艨艟四十 ...

芥川龍之介

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御親子の間がらでありながら、大殿様と若殿様との間くらい、御容子から御性質まで、うらうえなのも稀でございましょう。大殿様は御承知の通り、大兵肥満でいらっしゃいますが、若殿様は中背の、どちらかと申せば痩ぎすな御生れ立ちで、御容貌も大殿様の ...

岡本かの子

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二列に並んで百貨店ギャラレ・ラファイエットのある町の一席を群集は取巻いた。中には雨傘の用意までして来た郊外の人もある。人形が人間らしく動く飾物を見ようとするのだ。 百貨店の大きな出庇の亀甲形の裏から金色の光線が頸の骨を叩き付けるほど浴 ...

森鴎外

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第三十四日は文化三年六月二十三日である。「廿三日卯時発す。二里今市駅。呼坂を経るに人家街衢をなす。撫院河内屋藤右衛門といふものの家に小休す。薬舗なり。蔵書数千巻を曝す。主人他に行故をもつて閲することを不許。呼坂は蓋し昔にいふところの海 ...